【なぜ懲役23年?】東名あおり運転事件での検察官求刑について簡単に解説しました!
東名あおり運転事件(東名夫婦死亡事故)の裁判員裁判で
本日、横浜地裁で検察官な論告求刑と
弁護人の最終弁論が行われました
検察官の求刑は『懲役23年』
恐らく一般の方々は「軽いんじゃない?」
という感覚の方も多いと思いますが
法律家の立場で考えると「結構重いんじゃない?」
「殺人にも匹敵する求刑だな」と感じました
そもそも危険運転致死傷の法定刑は
1年以上20年以下
それなのになぜ懲役23年の求刑になるのか
簡単に説明させていただきます
① 被害者の数ではなく事件の数が基本
東名でのあおり運転事件では被害者が4名です
この場合に
危険運転致死傷(1年以上20年以下)×4人分=懲役80年
とはなりません
一つの犯罪行為で複数人に被害が出ている場合は
一つの罪として1年以上20年以下の枠内で刑を決めることになります
つまり、東名あおり運転時間だけ捉えると
最高20年の懲役しか科すことができません
② 事件が二つ以上ある場合は併合罪として処理
まずは刑法の条文です
「(併合罪)
第四十五条確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。」
要は、複数の時間が起訴されている場合の量刑は
併合罪として処理されます
そしてその処理の方法は
「(有期の懲役及び禁錮の加重)
第四十七条併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。」
なんのこっちゃですよね
簡単な計算式で表します
ⅰ 起訴されている罪の中で一番重い罪の刑のMAX(長期
法定刑の上限)の1.5倍の長さ
と
ⅱ 起訴されてる罪の刑のMAX(長期、法定刑の上限)を全部足した長さ
を比べて軽い方が、法律上の刑のMAX(刑の上限)になります
今回の件だと一番重いのは危険運転致死傷なので
ⅰ 一番重い罪の刑のMAXの1.5倍は懲役30年
「(危険運転致死傷)
第二条次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。」
四人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」
(「一年以上の有期懲役」と上限の記載がないときは、MAX20年になります)
次に、
ⅱ 刑の上限MAXを全部出すと
危険運転致死傷 20年
強要未遂2件 3年×2件=6年
器物損壊 3年
暴行(あおり運転) 2年
合計 31年
「(暴行)
第二百八条暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
「(強要)
第二百二十三条生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。」
「(器物損壊等)
第二百六十一条前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」
ということで
ⅰの30年がⅱの31年よりも軽いので
併合罪の処理の結果は
MAX30年ということになります
※ そもそも有期懲役はMAX30年で、その上は無期懲役ですので、「懲役31年」ということはあり得ません
このように、本件ではMAX30年までは判決が言い渡せます
その中で検察官は懲役23年を求刑したということになります
結果の重大性や社会的注目などを考えると妥当な求刑という評価が多いとは思いますが
一方で
・故意に殺した殺人でもなかなか求刑が20年を超すことはないこと
・北海道で起きた4人死亡の危険運転致死傷でも
求刑23年だったこと
・今回の死傷結果を直接生じさせたのは前方不注視のトラックであること
などを考えると
やはり重い求刑かな、と
検察官は裁判員に判断を委ねたな
と感じました
14日に判決を迎えます
どの犯罪が成立するのかも注目ですが
どのような刑が下されるのかにも注目です