【東名あおり運転判決予測】検察官と弁護人の主張と争点をまとめました!
いよいよ東名あおり運転の判決です
今回は、報道に出ている検察官の主張を弁護人の主張をかみ合わせて
少し詳しく(というか難しく)解説させていただきました
<検察官の起訴4件>
第1事件 あおり運転の後に被害者に車から降りるように要求した強要未遂事件
第2事件 あおり運転の後に被害者の車を足で蹴って凹ませた器物損壊事件
第3事件(いわゆる東名夫婦死亡事故)
あおり運転について暴行罪
被害者の致死傷について主位的 危険運転致死傷 予備的 監禁致死傷
第4事件 あおり運転の後に被害者に車から降りるよう要求した強要未遂事件
<弁護側の主張>
第1事件
否認 強要行為自体していない 被告人「(車から降りるよう要求をしたのではなく)窓を開けるように求めただけ」
窓を開けるように要求はしたが、この行為には処罰されるほどの違法性はない
(犯罪には当たり得るが、可罰的違法性がない)
第2事件
認める
第3事件
否認 ※ これは詳しく後述
第4事件
否認(第1事件と一緒) 強要行為自体していない 被告人「(車から降りるよう要求をしたのではなく)窓を開けるように求めただけ」
<第3事件の主張の整理>
【前提になる事実関係には概ね争いなし】
・石橋被告人が被害車両を4回にわたってあおったこと
・その後第3車線で急な減速をして被害車両を停車させたこと
・石橋被告人が後続車の左後部座席ドア付近に行き、被害者に暴行を振るったこと
(胸ぐら等を掴んで、外に引きずり出そうとした)
・その後トラックが追突し、致死傷結果発生
【危険運転致死傷が成立するか】
★妨害運転類型の危険運転致死傷罪の要件
要件1 人又は車の通行を妨害する目的で
要件2 走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し
要件3 重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
要件4 要件1~3の危険運転によって死傷結果を生じさせたという因果関係
★争点1
トラック衝突時に被害車両が完全停止しているのに要件3を満たすか
※ 法律の解釈は裁判員裁判であっても、裁判官のみでの判断事項です
- 検察官の主張
「重大な交通の危険を生じさせる速度」には、高速道路上では低速走行や停止(=速度0キロメートル)も含む。
- 弁護側の主張
停車している以上、「重大な交通の危険を生じさせる速度」には該当しない
- 私見
・法律が妨害運転危険運転に要件3という速度に関する要件を設けている以上、例え高速道路であっても、完全停車(時速0キロ)の場合を含むのは法律解釈として困難
・裁判所も公判前整理手続き段階で、罪名の変更(追加)を促していることからすれば、裁判所も要件3は満たさないと考えているのではないか
⇒ 本件では要件3「重大な交通の危険を生じさせる速度」を満たさないと思われます
★争点2
妨害運転とトラック衝突による致死傷結果に因果関係があるか
争点1で要件3を満たさないという結論になるのであれば、危険運転致死傷罪は成立しないことになるので、この争点2の検討は不要
- 検察側の主張
検察官は、完全停止行為が妨害運転に当たらないとしても、直前のあおり行為(直前侵入と減速による幅寄せ)と死傷結果には因果関係があると主張
検察官がよって立つ根拠=平成16年最高裁判決
『高速道で、被害者の運転態度に立腹して、被害者に謝罪をさせるために被害者の車を停止させて暴行を加えて立ち去った後、
被害者が鍵をなくしたと思い込んで車内などで鍵を探していたところ、後続車に追突されて死傷結果が発生したというケースで
最高裁判所は因果関係を認めた』
∵ 被害車両を停車させた被告人車両が走り去ってから7.8分後まで被害者が現場に停車を続けたという他人の行動等が介在して、後続車が追突する交通事故が発生した場合であっても
上記行動党が被告人の行為及びこれと密接に関連してなされた一連の暴行等に誘発されたものであったなどの事情の下においては、上記交通事故により生じた死傷との間に因果関係があるという判断
この判断を踏まえて
4回の妨害運転と密接に関連してなされた
・被害車両の停止
・胸ぐらを掴む暴行
・追突
に誘発された死傷結果だから因果関係ありと主張しています
- 弁護側の主張
妨害運転行為と死傷結果との間に因果関係があるかどうかは「妨害運転行為による危険性が死傷結果へと現実化したかどうか」で判断すべき
妨害運転で死傷が生じたわけではなく、直前停止+暴行という妨害運転後の別な行為の危険性が現実化したとみるべき
それにも拘らず死傷の結果との因果関係を認めると法の抜け穴を許すことになる
⇒因果関係なし
- 私見
要件3を満たすという判断になる場合、トラックによる追突(しかもわずか2分後)は、高速道路上での停車の危険性が、まさに現実化したという判断になるものと考えられる
⇒ 要件3が認められれば、因果関係は当然認められるのでないかと思います
要件3を満たさない場合は、因果関係は認められるべきではないと思います
今回の事件の本質は、高速道路で無理矢理停車させてその後その場で暴行を加えることで、第3車線上に被害者らを留め置いたことが死傷結果を誘発したという点です
この本質部分を犯罪行為とせずに
危険運転致死傷罪の要件を満たす直前のあおり運転を犯罪行為(実行行為)にこじつけて
本質部分を因果関係の一部に組み込んで、死傷結果の直接の原因論を曖昧にして
さらりと死傷結果の因果関係を認めるのはやはり法の抜け穴を認めてしまうことになると思います
つまり直前にあおり運転があったら、あおり運転と直接関係のない別な原因で死傷結果が生じても因果関係でごまかせることになってしまいます
しかも、平成16年の最高裁判決は
「高速道路で自動車を停車させた行為」
という追突のリスクの高い行為を犯罪行為としたうえで、因果関係を論じている判例です
やはり事案が違うと言わざるを得ないと思います
ということで、因果関係も認められないのではないかと思います
【監禁致死傷が成立するか】
★「監禁」とは
一定の区域からの脱出を不可能もしくは著しく困難な状態を一定時間継続すること
※ 物理的に閉じ込めなくても、周辺の状況や心理的な圧迫により脱出困難にする場合も含む
★争点1
「監禁」にあたるのか
- 検察官の主張
①場所
東名の第3車線、相当な交通量、2メートル手前という直前停止、被告の暴行で逃げ出せない状況などから、脱出著しく困難
②時間
2分以内でも監禁を認めている案件あり
③監禁状態の継続(石橋被告人が自車に戻ろうとしていたとの主張に対して)
第3車線で直前停止している状況に変化はなく監禁状態継続
④監禁の故意
監禁しようという意思は不要、監禁状態にある客観的な状況を認識していれば認められる
石橋被告人の認識に欠けるところはない
⑤監禁と致死傷結果の因果関係
認められる
⇒監禁致死傷罪成立
- 弁護側の主張
※ 検察官側の主張と必ずしも噛み合っていないように思います
①監禁の故意なし
バックするなどして車間を詰めることまではしていない、胸ぐらを掴んで外に引きずり出そうとしただけで、車内に閉じ込めるつもりなし
②被害車両の脱出が物理的に不可能ではない
進路変更をして第2車線に行くこともできた
③脱出が「著しく」困難だったとまではいえない
腕を振り払うなどしてスライドドアを閉めて発車することが出来なかったわけではない
監禁されていたのではなく謝罪をしてその場をやり過ごすために自ら止まっていた
⇒以上から「監禁」にあたらない
- 私見
監禁致死傷罪は認められると思います。
検察官側の主張にさらに僕なりの考えを加えます
①場所
検察官の主張のとおり、一定の場所に留め置いていることは明らかな客観的状況だと思います
②時間
今回は
× 2分間だけ監禁した事案
○ 監禁状態が継続している中で、偶然2分後にトラックが追突した事案
のですから、時間についての議論はあまり意味がないように思います
③監禁状態の継続(石橋被告人が自車に戻ろうとしていたとの主張に対して)
東名の第3車線での停車が危険なことは明らかです。
監禁状態が解消しているためにはやはり石橋被告人の車両が移動することがマストだと思います
④監禁の故意
東名の第3車線に留め置いている認識があれば十分と解されます
⑤監禁と致死傷結果の因果関係
過去の裁判例で、車のトランクに監禁していたら偶然車に追突されて死亡したという事案で、因果関係を認めたものがありますので、それと同様に因果関係が認められると思います
【その他の案件】
- 私見
第1事件、第4事件では、外に出るように言ったのか、窓を開けるように言ったのかが争点です。
被害者の供述が信用できるかという点はありますが、第3事件でも外に引きずり出そうとしていることなどからすれば、石橋被告人の手口として
あおり運転⇒直前停車⇒降りて行って車から引きずり出す
というパターンだと認定される可能性がそれなりに高いかなと思います。
そうなると、
第1事件 強要未遂
第2事件 器物損壊
第3事件 監禁致死傷と暴行
第4事件 強要未遂
<量刑はどうなる?>
検察官求刑=懲役23年
弁護人求刑=懲役7年 ※仮に監禁致死傷が成立した場合の求刑
- 私見
検察官は結構思い切った求刑をしたなと思います。
北海道で発生した危険運転(砂川市一家5人死傷事故)では、暴走運転で4人死亡、1人重傷という結果が生じました
このケースで求刑懲役23年、判決懲役23年となっています
この事件で懲役23年であることを考えると
・死者が4人ではなく2人であること
・砂川事故は自分の運転する自動車で被害者を轢いての死傷であるのに対し、
今回は、後続のトラック追突という偶然の事情があること
・しかも後続のトラックには前方不注視(わき見運転)や、車間距離不足等もあったとのこと
これらの事情を加味すると、やはり砂川事件と同等の判決にはならないのではないかと思います
とはいえ、あおり運転を繰り返しているという犯情の悪さや
公判での反省の態度が不十分とみられる可能性なども考えると
- 判決についての勝手な私見
懲役15年~18年程度
になるのではないかなと思っています
いずれ明日の判決に注目です。
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