【道路にロープを張ってバイクを転倒させた殺人未遂事件】これって殺人未遂なの?
平成30年12月26日(水)午前3時34分頃、相模原市南区相模台1丁目7番6号先路上で
被疑者が道路を横切るかたちでロープを張り、普通自動二輪車で進行してきた被害者を転倒させ、腰部打撲などの傷害を負わせたという事件が発生しました
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181226-00010013-houdoukvq-soci
原付を含むバイクは、車と違って転倒という大きなリスクがあります
しかも、体が保護されていないので、
走行中の転倒は、死に直結します
僕もバイクを乗りますが、特に高速道路を走っているときなどは
裸の命が走行しているようだなと思うことがあります
ともかく、バイクの転倒は死亡に繋がります
ですので、今回のような行為は、死亡結果を生じさせ得る非常に危険な行為です
警察もこのような危険性を考慮して、殺人未遂罪として被疑者を追っているとのことです
こういう事件が起きるとよく受ける質問として
これって殺人未遂なの?単なる傷害事件じゃない?
殺意ってなに?
というものがあります
殺人未遂罪(刑法203条・199条 死刑、無期懲役、5年以上の懲役 これが未遂として半分になるかも)
傷害罪(刑法204条 15年以下の懲役または50万円以下の罰金)
今回の被疑者は、
恐らく、面白半分でトラップを仕掛けたくらいの気持ちであって
走ってきた人を殺すつもりまではなかった
のではないでしょうか
しかし、結論としては、本件では「殺意あり」と認定される可能性が高いと思います
そこで、殺意(≒殺人の故意)というものについて簡単に解説させていただこうと思います
まず、殺意はこのように定義されています
[box] 司法研修所編 『難解な法律概念と裁判員裁判』(2009年)14頁 殺意=『人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であるとわかって行った場合』 [/box]
※ この本は、裁判員裁判が始まることに伴い、難しい法律用語(共謀共同正犯、責任能力など)をわかりやすく一般の方々に説明できるようにと、作られた本です
僕も裁判員裁判に臨む際にはよく使っています
この定義を分析的にみると
①人が死ぬ危険性の高い行為を
②そのような行為であるとわかって行った
という2点が要素になります
①については、
例えば、「死ねー!!!!」「ぶっ殺すぞ!!!!」と言いながら
エアガンを身体に向けて撃ったり
腕や肩を殴っても
その行為自体には人が死ぬほどの危険性はありませんので
殺意のある行為とは評価されません
②については
毒が混入されたオレンジジュースと知らずにそれをお客さんに振舞ったり
被害者が血友病(血が止まらない病気)であると知らずに、ナイフで腕を切りつけたり
という場合は、
死に至る行為であることの認識がないので殺意ありとはされません
今回のケースは、上記の例ほどわかりやすいものではありませんが
冒頭で述べた通り
バイク走行中の転倒は死に直結します
転倒によって頭を打ったり
壁などにぶつかったり
対向車に轢かれたり
色々なリスクがあります
しかも、今回のロープは、電信柱とコンクリート土台の看板に括りつけられているので
走行者に絡まるに止まらず
転倒にまで至らしめる危険な装置といえます
となると
例え被疑者が「冗談でトラップを設置しただけだよ」「殺すつもりなんか微塵もなかったよ」
と言ったところで
①ロープを張ってバイク運転手を転倒させるという人が死ぬ危険性の高い行為を
②そのような行為であるとわかって行った
のですから、殺意ありという認定になると思います
ここまでが論理的な解説です
もっとも、実務では、明らかに殺人未遂罪であっても
被害状況、犯行態様、本人の反省、被害弁償等を考慮して
そもそも起訴しなかったり
軽い傷害罪で起訴する(略式起訴で罰金)ということもあり得ます
検察官には、どのような犯罪で起訴するかの裁量があるので
まぁ傷害罪といえば傷害罪だよねという事実関係であれば、殺人未遂ではなく傷害罪で処分することもあり得ます
今回は、幸い被害者は骨折などには至らず、手術も必要ないとのことなので
お怪我は必ずしも重くはなさそうです
ですので、このような犯行に至った経緯
被疑者の反省(逃亡せずに、任意出頭した方がより軽くなる)
バイクを含めた十分な被害弁償
などがなされれば
上記のとおり、殺人未遂罪でもいけるのですが
裁判員裁判という大掛かりな裁判となる殺人未遂罪ではなく
傷害罪での処分ということもあり得ると思います
まだ被疑者が捕まっていない状況なので
まずは被疑者の確保をし
その後、動機や経緯などの解明を進めていただきたいと思います
そして、模倣犯が出ないことを祈ります
本当に、バイク走行中の転倒は死に至り得るので!!