【勾留理由開示請求は意味のない手続き?】今日のゴーン氏の勾留理由開示手続について解説
今日、東京地裁でカルロスゴーン氏の勾留理由開示手続きが行われます
あまり聞きなれない手続きだと思います
実際のところ、勾留されている事件の1パーセントにも満たない割合でしかこの勾留理由開示請求は行われていません
僕は10件ほど勾留理由開示を行なったことがありますが、裁判所的にもなかなか行われない手続きなので、
司法修習生が毎回傍聴席に溢れます
弁護士でもやったことがない人が圧倒的に多いと思います
ではなぜ勾留理由開示請求がこれほど稀にしか行われないのか
それは
ほとんど行う意味がないからです
そして、勾留理由開示手続きを意味がないものにしているのは
裁判官です
これから、勾留理由開示手続きについて、簡単に説明し
何故、意味がない手続きなのか
そしてなぜ僕が10回近くも勾留理由開示を行なっているのか説明します
★勾留理由開示とは
これは、刑事訴訟法82条以下で規定されている制度で、勾留された被疑者の権利です
※条文は末尾に掲載しています
被疑者や弁護人などが勾留理由開示請求を行えば、裁判所はこれに応じなければなりません
勾留理由開示の目的は
勾留決定をした裁判官に勾留をした理由を明らかにさせることで
勾留取消請求や勾留に対する準抗告の材料とすること
さらには、勾留を決定する裁判官に対する牽制の意味合いもあると思います
●勾留理由開示の流れは以下の通りです
勾留理由開示の請求
↓
裁判所の日時指定
弁護人に対して事前に質問事項(求釈明事項)があれば出すように指示
↓
勾留理由開示手続き期日
公開の法廷で裁判官がまず勾留理由を明らかにする
その後弁護人からの質問事項に答える
さらに質問事項があれば弁護人は質問をし
裁判官がこれに答える
そして、被疑者と弁護人は勾留に関する意見を述べることができます
その意見の際
そもそも被疑事実が真実でないこと
逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れのないこと
などについて10分程度話すことができます
★勾留理由開示は意味がない手続き?
冒頭にも述べましたが
勾留理由開示手続きはほとんど意味のない手続きです
裁判官が述べる勾留理由は
「検察官提出の一件資料によると、被疑者には、関係者に働きかけるなど罪証隠滅の恐れが認められる」
という程度の理由開示しかなされません
僕が経験した勾留理由開示請求全てにおいてこのようなすっかすかな理由しか述べられません
一件資料を見て、罪証隠滅のおそれがあると判断したことも
(具体的に誰に対するものを想定しているのかを明示することなく)
漠然と関係者へ働きかける可能性を認めたことも
勾留理由開示をするまでもなくわかりきったことです
こんな当たり前のことを聞くために法律は勾留理由開示請求を認めたわけでないことは明らかですし
弁護人や被疑者も手続きを求めたわけではありません
しかし、裁判官は
これだけ答えれば十分
罪証隠滅についてのヒントを与えることになるからどんな証拠についての罪証隠滅の可能性があるかなど答えることはできない
などと言って、これ以上の事情を全くと言っていいほど明らかにしません
たまに裁判長級の年配の裁判官が踏み込んで話してくれることもあるときいたことはありますが、僕は一度も当たったことはありません
このように、裁判官による
スッカスカの回答がまかり通っているため
そして裁判所がそのような運用を認めているため
勾留取消や準抗告といった次の手続きの材料は全くと言っていいほど獲得できないのが実情です
それゆえ勾留理由開示は意味がない
といえるのです
★それでもなお勾留理由開示をするわけは?
上述のように、意味のない手続きであることはわかりきっています
しかし、それでもなお勾留理由開示をする理由があります
それは以下の理由です
・家族との対面
公開の法廷で行われるため傍聴席にいる家族の顔を見ることができる(接見禁止の場合、弁護人としか接見できないので、家族の顔を数カ月にも渡って見ることができないということはよくあります)
・被疑者の気分転換
ゴーン氏は毎日のように密室の取調室で取り調べを受けているはずです。そのような状況では精神的に追い詰められてしまいます。
勾留理由開示をすれば、その日の取り調べは実際行われない可能性があります
また車での移動などもあるため気分転換にもなります
特に被疑者が被疑事実を否認しているような場合は、捜査機関が被疑者を外部から断絶した状況において
自白を迫ります
そこで、やってもいない犯罪について自白させられてしまったという事案は枚挙にいとまがありません
勾留理由開示は
・被疑者が長い取り調べに耐える
・否認を貫く英気を養うために行う
という本来的な目的ではない二次的な目的があるため
僕はこれを何度も行なっています
★最後に
一部報道によると、
ゴーン氏は自分の嫌疑について
潔白であることを意見として述べるのではないかという予測がありました
しかし、僕はこの行為にはリスクしかないと思います
弁護人はゴーン氏と証拠を全て検討した上で裁判での戦略を決めます
しかし現時点で
ゴーン氏も弁護人も証拠を見ることができません
どのような書面があり
どのようなメールがあり
誰がどのような話をしているのか
など全くわかりません
しかもゴーン氏の記憶もどこまで正確かはわかりません
この状況で事実関係について
多くを語ってしまうと
客観的な証拠と矛盾してしまう可能性があります
また、他の関係者の供述とも食い違う可能性もあります
勾留理由開示手続きでのやり取りは
裁判所が書面(調書)で残します
もし矛盾があれば、ゴーン氏の裁判の際に
・記憶が曖昧だという証拠
・自身に有利な虚偽供述をしている証拠
を自ら作ってしまうことになります
そしてこれは自分の裁判戦略の足を引っ張ることになります
一方、矛盾がなかったとしても
勾留理由開示の際の言い分と
裁判での供述が食い違っていないというに過ぎず
これによってゴーン氏の言い分が補強されるわけではありません
※結局そんなに細かくは述べなかったようです
ゴーン氏が身の潔白を主張したい気持ち
社会に対してアピールしたい気持ちもわかりますが
僕はこの戦略はマイナスのように思います
いずれまもなく勾留理由開示手続きが行われますので
裁判官が何を話し
ゴーン氏が何を語るのか注目です