【大阪あおり運転殺人】バイクへのあおり運転は殺人罪になる流れ?
東名あおり運転の裁判が終わってまだ日が浅いですが
また注目すべきあおり運転の事件の裁判が始まりました
しかも、今回のあおり運転の事件は
危険運転致死傷罪ではなく
殺人罪での起訴、裁判員裁判です
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12213-20190115-50050/
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
【今回の事件の注目点は?】
典型的な態様のあおり運転での死亡事故でありながら
殺人罪で起訴したことが、まさに異例です
検察庁は、バイクに対するあおり運転行為が
殺人の実行行為にあたり
なおかつ、運転していた中村精寛(あきひろ)被告人には殺意(殺人の故意)があるとして
殺人罪の起訴に踏み切ったようです
今回の事件については、
被告人自身のドライブレコーダーがあるため
クラクションを鳴らしたり、ハイビームにしたりという運転態様についての
立証は難しくはなさそうです
しかもそこには事故直後に「はい、終わり」という音声までは行っているとのこと。
このドライブレコーダーの再生が
今日の第1回公判で行われたようです
明日の公判では
証人尋問と被告人質問
明後日論告弁論があり
翌週判決となります
この事件の争点は
被告人に殺意があったのかどうか
という点に尽きます
では、今回の事件では殺意があったといえるのでしょうか
ドラレコを見る限りは
あおり運転をして
「衝突してしまった」
ようにも見えます
どうなれば過失運転致死で
どうなれば危険運転致死で
どうなれば殺人罪なのか
殺意は法律的にも難しい概念ですし
しかも今回は、未必の故意という難しい概念も出てきます
そこで、この殺意について簡単に説明させていただきます
【殺意があるというのはどういう場合?】
私見ですが、あおり運転をしていることが明白な事案のように見えるので、
弁護人は過失運転致死を主張しているようですが、これは厳しいかと思います
一方、先ほど述べたとおり
客観的には危険運転致死とも殺人罪ともいえそうです
つまり客観的な運転状況だけを見ても
どちらかを判別するのは困難です
その結果、危険運転致死か殺人かを分けるのは
被告人の認識、主観すなわち殺意の有無によらざるを得ません
通常の殺人事件であれば、「殺すつもり」「殺す意欲」があったかどうか
という単純な問題設定でいいのですが
今回の事件は、ちょっと厄介です
細かく事実関係や認識を検討すると
①自動車を被害者にぶつける意思・意欲があったのか
②(仮にぶつけるつもりがあったとして)
被害者を死亡させる意思・意欲があったのか
という殺意を認めるための2段階のハードルがあります
このような問題は計画的ではない憤激の末の行為による殺人の場合によく問題になります
そしてこのような場合に用いられる概念が
「未必の故意」
です
定義としては
(死ぬことを積極的に意欲しているわけではないが)
死ぬかもしれないが、それでもかまわないと思い、あえて行動に及んだ場合
を殺人の未必の故意があるといいます
まぁわかるようなわからないような
そして今回はこれに当たるの当たらないの?という別な問題にぶつかるだけです
このような場合を踏まえて
裁判所は、殺意を以下のように定義して裁判員にわかりやすく説明するようにしています
殺意=人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であるとわかって行った場合
さらに簡単にいうと
その行為って人が死ぬ可能性あるよね、わかってるよね
という場合は殺意ありということになります
この定義で考える場合
上記②のハードルは容易に超えられると思います
走行中のバイクを転倒させる行為は
運転手を死亡させる可能性があります
このことは常識です
車を接触させればバイクは転倒する可能性がある
バイクが転倒すると運転者は死亡する可能性がある
それをわかりながらあえて接触させたのであれば
殺意は当然認められます
先日、道路にロープを張るトラップを仕掛け
原付運転手を転倒させたという事件がありました
これも、バイク運転手を転倒させるという行為の危険性を認識した上で
この行為に及んでいることは明らかですから殺人未遂罪として処理されることになります
問題は
上記①のハードルです
バイクをぶつける意思があったのか
間違って追突してしまったのか
前者であれば人が死ぬ可能性のある行為を敢えてしているわけですから
殺意は認められます
一方、後者であれば追突自体には故意がないことになるため
殺意ありとする前提がなくなってしまいます
ではどういう事実関係があれば
バイクをぶつける意思があったといえるのか
殺意があったといえるのかを分ける事実関係、注目点をまとめさせていただきます
【殺意が認められるかどうかを分ける事実関係は?】
上記①が認められるためには
先ほどの殺意の概念を、ぶつける意思に敷衍してあてはめると
こうなると思います
自動車が接触する危険性の高い行為を、そのような行為であるとわかって行った場合
さらに簡単にいうと
それだけ接近して走行したらバイクに追突する可能性あるよね、わかってるよね
こう考えると
基本的には、
・バイクとの車間距離をどのくらい詰めていたのか
・衝突直前の被告人の運転態様(走行速度(そこから導き出される制動距離)、ブレーキ、あおり運転行為の態様等)
・衝突直前の加害者の運転態様(走行速度、ブレーキ、同様にあおり運転を行っていないか等)
・道路の混み状況や形状(直線か、カーブか、車線が何車線あるか)
などの事実関係を前提に
追突する可能性の高い運転態様で車間距離を詰めていたのであれば
被害車両のブレーキや減速に対応できず追突する可能性は非常に高いことになります
そして、運転者はそのような車間距離であることを認識しながら
バイクとの車間距離を詰めているのですから
それだけ接近して走行したらバイクに追突する可能性あるよね、わかってるよね
といえる
つまり、上記①のハードルを超え
殺意ありと認めることができることになります
今回の事件では、約100キロの速度で走行しながらあおり運転を行って車間距離を詰めたとのことです
現場道路は、交通量の多い道路のようなので
被害バイクの前の車両がブレーキを踏めば
当然被害者の方も減速、ブレーキをせざるを得ません
そういうバイクの動きも想定されるのに
敢えて車間距離を詰めていたのですから、
やはり追突の可能性を認識しながら、車間距離を詰めたとして
殺意ありとされる可能性が高いと思います
なお、「はい、終わり」というセリフが注目されていますが
検察官・弁護人としては
このようなどちらとも取れる事実関係を立証の中心にはしないはずです
被害者が転倒したことを揶揄した発言とも
自分の人生が終わったという趣旨の発言とも
とれますので
他の状況等を加味しないと、発言の真相は分からないと思います
一方、衝突直前の緩やかなブレーキは注目すべきだと思います
速度を調節して軽く当てるつもりだった(跳ね飛ばすまでの意思はなかった)
という検察官側の見立てを裏付ける側面もありますし
逆に
飽くまで煽るつもりしかなかった
絶対に衝突させるつもりはなかった
という弁護人の主張を裏付ける側面もあります
この客観的事実を巡る主張立証には注目すべきと思います
【バイクを煽ったら殺意あり?】
先ほど「客観的な運転状況だけ見ても危険運転致死なのか殺人なのかを判別するのは困難」といいましたが
私見としては
バイクを煽って追突したり
幅寄せをして転倒させたら
殺人罪(殺人未遂罪)になる
という運用になっていくのではないかと思います
殺意の定義に戻りますが
殺意=人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であるとわかって行った場合
さらに簡単にいうと
その行為って人が死ぬ可能性あるよね、わかってるよね
バイクは、無防備な人間が乗っている乗り物です
これを転倒させたら
無防備な人間が路面にたたきつけられ
壁に跳ね飛ばされ
さらには対向車や後続車に轢過され
死亡や重傷に至る
という非常に危険な状態に陥らせてしまいます
そしてこんなことはわかりきったことです
そして、
バイクは2輪で不安定です
バランスを崩せばすぐに転倒してしまいます
ましてや、走行中の自動車に接触したらほぼ確実に転倒します
これもわかりきったことです
このように無防備で一度転倒したら死亡のリスクの高いバイクに対するあおり運転は
自動車をバイクに接触させることや
幅寄せの恐怖心からバイク運転手のバランスを崩す結果をもたらす可能性の極めて高い行為です
すなわち
バイクに対するあおり運転は
人が死ぬ危険性の高い行為
であることが明らかです
したがって、バイクに対するあおり運転には殺意があると認められますし
当然危険性を認識しながらバイクを自動車で煽ったら
殺人未遂行為
死亡させてしまったら殺人罪(殺人既遂罪)になるものと思われます
今回の事件を踏まえ
警察によるあおり運転に対する取締は厳しくなると思いますし
バイクに対するあおり運転は殺人罪
として立件されていく流れができると思います
【もし殺人罪が認められない場合、裁判はどうなる?】
もっとも、前後のあおり運転状況などからして
衝突は絶対に避ける意思であったことがわかる事情があれば
判決において、殺意が認められないことも当然あり得ます
今回の検察官の起訴は殺人罪ですが
もし殺意が認められない場合は、殺人罪については無罪ということになります
殺人罪と危険運転致死罪は罪質が異なるので、
今の起訴事実のまま、「本件は危険運転致死罪だ」という認定(いわゆる縮小認定)を行うのは難しいと思います
この場合、裁判所・検察官は通常被告人を無罪放免にはしません
審理の結果、殺意の認定が難しい場合は
裁判所は検察官に対し
「危険運転致死罪での予備的起訴をしておいた方がいいよ」
と勧告することになります
そして検察官は予備的訴因として
危険運転致死傷罪での追起訴をすることになります
先日の東名あおり運転のときも
検察官は、監禁致死罪での予備的訴因の設定をしていました
これを踏まえて、裁判所は
危険運転致死罪で有罪とし、量刑判断をすることになります。
量刑判断は
感覚的には、殺人罪でも危険運転致死罪でも
重い量刑が見込まれるように思います
【最後に】
今回の事件も、あおり運転の態様が危険な悪質事案だと思います
明日の被告人質問でどのような事実を述べるのか
そして、裁判所がどのような事実認定と量刑判断をするのか
引き続き注目してきたいと思います
また、やはり危険運転罪の制定は必要だと思います!
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