【上級国民は逮捕されないのが現実】池袋暴走事故で逮捕されない理由と高齢者運転の問題点を解説!!
本当に痛ましい事件です
池袋高齢者暴走事故の被害者遺族の記者会見が先日ありました
僕の事務所にも、怒りの声が届きました
妻と3歳の娘を一気に失うことなど、考えただけでも震えが来ます
被害者の夫であり父であるご遺族の方が記者会見をすること自体勇気のいることだと思います
ご遺族の会見は、再発防止を願うという大きなメッセージを伝えるため、怒りと悲しみをできるだけ抑えた会見だったようにお見受けされました
僕だけでなく、非常に多くの方の心を打つ記者会見だったと思います
※思い入れがあるからか、随分文章量が多くなってしまいました
★ 「上級国民」は逮捕されない
★ 池袋高齢者暴走事故の今後の流れ
★ 高齢運転者の問題点と今後の規制
★ プリウスの問題点
※ プリウスの検査にトヨタを立ち会わせる問題点
という順番で書かせていただいております
この池袋高齢者暴走事件が話題になっている原因は以下の理由です
①元公務員・元官僚という肩書があること
②加害者が87歳という高齢であることと
③載っていたプリウスのアクセルが戻らなくなったと供述していること
そして
④12名もの人を死傷させているのに逮捕されていないこと
このうち、特に注目されているのは
①と④
元官僚の「上級国民」に忖度をして警察は逮捕しなかったのではないか
という疑いです
上級国民は逮捕されない?
今回の平成31年4月19日の池袋暴走事故と比較されるのは
平成31年4月21日に神戸市で発生した暴走バス事件
これらの事件はいずれも過失運転致死傷罪なので、適用される罪名は同じです
【参考】
自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)
第5条(過失運転致死傷)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
だったらどちらも逮捕されるかと思いきや
12名もの死傷者を出している池袋暴走の87歳男性は逮捕されず
8名の死傷者を出した暴走バスの64歳男性は逮捕されました
また少し前にも
ヤメ検の78歳の弁護士が車を暴走させて死亡事故を起こした件でも
加害者は逮捕されませんでした
この展開から
「池袋暴走は
元官僚という「上級国民」だから
忖度したのではないか」
という疑惑につながっていったわけです
実際のところは?
多くの刑事事件を扱ってきた弁護士の立場からの感覚としては
「上級国民」が逮捕されないというのは真実だと思います
「上級国民」の定義は明らかではありませんが
「上級国民=元官僚、医者、弁護士など社会的な地位と家庭があり、収入・資産が潤沢にある人」
と仮に定義するのであれば
このような「上級国民」が他の方に比べて
逮捕されないケースが多いということは、ある意味弁護士の共通認識だと思います
その理由は
「どのような場合に逮捕することができるのか」
という逮捕の要件をひも解くことでわかります
逮捕の要件
簡単にいいますと
1 犯罪の嫌疑がある
2 逃亡のおそれがある
3 証拠隠滅のおそれがある
という場合に逮捕が認められます
【参考】
刑事訴訟法第199条(逮捕)
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。
刑事訴訟規則第143条の3(明らかに逮捕の必要がない場合)
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
「上級国民」=
「元官僚、医者、弁護士など社会的な地位と家庭があり、収入・資産が潤沢にある人」
の場合、
1 犯罪の嫌疑があっても
2 地位・資産・家族を放り出して逃亡生活を始める可能性などないでしょう
ですので、
無職・未婚・身寄りなしの人に比べれば
「上級国民」は逃げないよね
ということになります
また
3 証拠隠滅をすれば「反省がない、事件後の態度が悪質」などとして刑が重くなるリスクがあります。
さらに、証拠隠滅が発覚した時点で、身柄がとられてしまい、長期にわたり警察署に留め置かれることになります。
「上級国民」の場合
逮捕により地位を失い、家族を失い、資産減少を招くリスク社会生活に重大な支障が生じます。
また、実際に刑事裁判にかけられたり、実刑を受けることになれば、さらなる実害が生じます
ですので
無職・未婚・身寄りなしの人に比べれば
背負っているものが大きい、リスクが大きいのに
敢えて証拠隠したりはしないよね
という信頼があることになります
このような感覚は、逮捕する捜査機関も、令状を出す裁判所も持っていますので
結論としては
「上級国民」は逮捕されにくいというのは真実
ということになると思います。
池袋高齢者暴走事故の加害者も「上級国民」でしょうから
一般論としては、逮捕されにくいことになります
SNSの消去は証拠隠滅では?
池袋高齢者暴走事故の加害者は
事故直後に親族に指示をして、
SNSのアカウントなど、個人に関するインターネット上の情報を消したという報道があります
このSNSの消去は証拠隠滅とも思われます
確かに、過去の投稿に
「運転がままならなくなったから免許を返納したい」
「駐車場に入れるのが下手になった」
「物損事故を起こしてしまった」
等の記載があるなら
自身の運転能力がないことを裏付ける証拠の隠滅ということになるでしょう
もっとも、今回のSNSの消去は
証拠の隠滅ではなく
マスコミなどにプライベートを晒されることを予防するためだと思いますので
証拠隠滅には当たらないと判断されたのだと思います
加害者も怪我をして入院していることは影響する?
実は僕自身、
池袋高齢者暴走事故の加害者が
逮捕されなかった一番の理由
はここにあったのではないかと思っています
事件直後は、警察も事故状況、事故原因、精神状態、人間関係などが把握できていません
ですので、加害者本人を自由にしてしまうと何らかの証拠隠滅に走る可能性がある
と警察は考えます
そのため、重大な交通事故のような場合は、事故直後に逮捕されるケースが多いです
もっとも、今回の池袋高齢者暴走事故の加害者は
事故により自分自身も怪我を負い、入院しています
入院しているということは
加害者の居場所が常に判明しているということです
また、加害者との意思疎通ができる状態であれば
病院に行って取調べをすればよいことになります
その一方で、加害者自身が病院に留め置かれている間に
ドラレコの解析、目撃者からの事情聴取、家族からの事情聴取を行うことができます
その結果、
事故状況、事故原因、精神状態、人間関係が
事故後に収集した証拠により裏付けられる状態になれば
必要な証拠がすでに集まっている
つまり
証拠隠滅の可能性がなくなる
ということになります
池袋高齢者暴走事故の加害者も
ヤメ検弁護士の事故も
事故後に入院しているので、
逮捕が可能になる退院の時点ですでに証拠隠滅の可能性がなくなった
だから在宅でいいんじゃないか
という判断になった可能性が高いと考えています
ただ、大前提として
交通事故の事案に関しては
今は防犯カメラが街中にあり、ドラレコも多くの車に装備されていますし
身柄をとり続ける必要がないと考えられて
検察官が逮捕の後の勾留を求めなかったり
裁判官が勾留請求を却下したりすることも多いです
それゆえ、
飲酒運転のような事案や、あおり運転の事案などでない交通事故の事案であれば
「上級国民」かそれ以外かにかかわらず
そもそも逮捕する必要は乏しいと思います
今後の流れ
このまま在宅で処理されていくとしても
12人もの死傷者を出しているのであれば
刑事裁判にかけられる可能性が高いと思います
(プリウスの機能の問題が明確にならない限り)
そして、刑事裁判の結果
プリウスに原因がなく
単なる認知機能の低下による事故
アクセルを離さなかった・ブレーキを踏まなかった・ハンドル操作が不適切
治療中の右ひざの不調を認識しドクターストップがかかっていたのに敢えて運転した
といった
判断ミス、判断力の低下が原因の事故
と指弾されることになれば
80代であっても
実刑は十分あり得ると思います
過去にも80代の交通加害事故で
実刑になっている件が複数あります
適切な事故原因の究明がなされることを祈ります
高齢者運転の問題点
あくまで僕の個人的な感覚ですが
86歳の運転する自動車には恐怖を感じざるを得ません
運転は視野の広さ、急停止の瞬発力、道路状況に合わせた判断能力、バイクならボディバランスが必要なのはいうまでもありません
これらの能力に関しては
むしろ普通自動車の免許の取れない16歳の方が適性があるかもしれません
これらの能力は、加齢とともに低下していくことは明らかです
特に高齢者になれば、これらの運転能力だけでなく
見当識等を含めた認知機能全体が低下していきます
80歳を超えているのであれば、認知機能の障害そのものが疑われる年代でしょう
暴走、信号見落とし、逆走、アクセルとブレーキを間違うなど
高齢者運転者の事故は枚挙にいとまがありません
実例
僕の祖父は
75歳頃まで車も原付も運転していました
しかし、ある日、原付運転中に転倒をして
顔などに怪我をして帰ってきました
交差点で転倒したとのことですが
特に雨で路面がぬれていたといった事情があったわけではないので
ボディバランスを維持できなかったのだと思います
この事故を境に
家族で説得をして、運転免許を返納させました
自分の命、他人の命
いずれも落とすことにならなくて本当によかったと思います
高齢者の免許更新・有効期間
上述の通り、高齢者は判断能力のみならず認知機能も低下していきますので
通常の免許の有効期間とは異なる期間設定や、条件が付されています
【免許の有効期間】
優良講習(ゴールド) 5年 70歳は4年 70歳を超えると3年
通常講習(ブルー) 年齢問わず3年
【高齢者講習】
運転免許証の更新満了日の年齢が満70歳以上の人は、免許更新手続前に、自動車学校での高齢者講習が必要
さらに75歳を超えると高齢者講習に加えて認知機能検査(講習予備検査)が義務付け
高齢者運転への対策
ツイッターを見ていて
免許返納した高齢者の方の心に残った言葉があります
『私にはまだ判断力が残ってるから、免許を返納した』
相続の問題、事業承継の問題の相談を受けるときにいつもぶつかる問題です
誰だって自分の認知能力の低下や
自分が経営者としての判断力の低下
ましてや自分がぼけているなんて認めたくないもの
なので、
「遺言を書きましょう」
「事業を早く息子さんに譲りましょう」
と言っても
「俺はまだ大丈夫」
「まだ死ぬことなんか考えない」
と言い返されてしまいます
そして、その後、
急に認知症が重くなったり、亡くなられることで
取締役会も株主総会も開くに開けず
会社の経営に重大な支障を生じさせることになります
いつか確実に来る将来のために
判断能力があるうちに予防線を張っておくことは非常に重要です
運転免許の返納も同じだと思います
自分はまだまだ運転できる
自分は運転がうまい
50年間無事故無違反
そう思っているのでしょうけれども
能力の低下による事故はある日突然起きます
それが重大事故につながることも十分あり得ます
一発即アウトです
そして歳と共にプライド、万能感が上がっていくという話もあります
僕が以前担当した交通死亡事故でも
加害者は80代の方で
その死亡事故を起こす日まで無事故・無違反でした
無事故・無違反というだけでは
重大事故を起こさないなどという保証にはなりません
今は75歳以降には、3年に一度の免許更新の際の認知検査が義務付けられていますが
1年で認知機能が劇的に低下することもあり得ます
例えば75歳以降は
免許更新を1年に一度にし、毎年の認知検査を義務付ける
など
免許の有効期間や、認知検査の義務強化などの対策を講じる必要があると思います
プリウスの問題点
ネットでは「プリウスミサイル」などと
プリウス=危険というイメージ刷り込みが見られますが
この点についての真相は、正直わかりません
単に販売車数が多いので
事故の際に目につくだけかもしれませんし
池井戸潤さんの「空飛ぶタイヤ」
のようなこともあり得るかもしれません
後者のような展開はドラマチックではありますが
その立証のハードルは限りなく高いと思います・・・
ディフェンス側の弁護人側では
費用の面でも、調査能力の面でも
十分な調査を行ったり、資料を得られないかもしれませんので
強制捜査権限のある検察側において
プリウスの問題点の有無についての
必要十分な検証を行う必要があると思います
※ プリウスの検査にトヨタを立ち会わせる問題点
プリウスには問題がなかったという報道が出ました
「警視庁がメーカー立ち会いのもと、飯塚元院長の車の点検を行った結果、アクセルとブレーキに異常がなかったことが新たにわかった」
とのことです
この報道によると
警察は車両のブレーキなどの点検の際に
メーカーであるトヨタ立ち合い
を受けているようです
もし今回の事故原因がプリウスのブレーキ等にある場合
トヨタは加害者ということになりますので
現時点では被疑者のはずです
つまり
「アクセルとブレーキの異常の有無」という結果にめちゃくちゃ利害関係のある当事者を立ち会わせて検査を行った
さらにいうなら
「アクセルとブレーキに異常がない」という結果にすべく偽装・隠ぺいする動機のある被疑者を立ち会わせた
ということになります
それゆえ、今回警察が行ったような
客観性が保たれるべき検証の場にトヨタを立ち会わせることに問題があることは明らかです
車両に直接何らかの偽装ができるかもしれません
何らかの虚偽説明をするかもしれません
そして、プリウスの問題点にトヨタの社員だけが気付き
それを会社に持ち帰ってデータなどの偽装・隠ぺいを行う可能性だって否定されません
現時点ではトヨタも被疑者なのですから
ですので、
車両の検査を行うのであれば、トヨタと関係のない鑑定人を立ち会わせるべきですし
トヨタからの事情聴取、データ等の資料提供、車両の構造の説明等が必要であれば
目的物である事故車両を見せずに行うべきです
また事故車両を見せる必要があるのであれば
それは資料の提出、第三者の鑑定などが終わった後に
必要最小限の範囲で行うべきでしょう
(もしかしたらこのような段取りを経て検査を行っているのかもしれませんので
そうであれば問題はないことになります)
プリウスのブレーキ・アクセルの異常の有無は
今回の事故関係者にとって非常に重要な事実関係であるに止まらず
現在、日本中を走っているプリウス全体に影響を及ぼす調査になるはずです
今回の調査方法が、結果に対する疑念が生じないものであることを祈ります
最後に
めちゃくちゃ長くなりましたが
この池袋高齢者暴走事故は
そもそも逮捕をする必要があるのかどうか
高齢者運転の規制をどう考えていくのか
自動車の性能が事故に影響を与えた可能性
など多くの問題を提供していると思います
そして何より
被害者ご遺族の方が記者会見でお話しされたように
同様の事故が二度と起きないようにすべきこと
判断力のあるうちに、重大事故を起こす前に
免許返納を行ってもらうべきこと
これらについてしっかりと議論・法制していく必要があると思います
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