株主代表訴訟の構造や裁判費用、弁護士費用について

お知らせ

「株主代表訴訟」をご存知でしょうか?

株主代表訴訟とは、会社が経営陣の責任を追求しない場合に株主が代わって経営陣の責任を追及するための訴訟(裁判)です。

 

2022年7月13日、東京電力の旧経営陣に対して提起された株主代表訴訟において、裁判所は旧経営陣へ13兆3210億円もの金額の支払い命令を下しました。

 

なぜこのような高額な支払い命令が出たのでしょうか?

この場合、株主らの弁護士はどの程度の報酬を受け取れるのでしょうか?

 

今回は世間であまり知られていない株主代表訴訟の構造や裁判にかかる費用、弁護士費用について、解説します。

 

東京電力の裁判や株主代表訴訟に関心のある方はぜひ参考にしてみてください。

 

動画でも東京電力の裁判や株主代表訴訟に付いて解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=S_3aY6-A9-8

 

1.株主代表訴訟とは

株主代表訴訟とは、株主が会社に代わり、会社の経営者である「取締役」の経営責任を追及して損害賠償請求を行うための訴訟です。

 

取締役が任務を怠った場合などには、本来会社が取締役を追及しなければなりません。

しかしさまざまな事情により、会社は経営陣の責任を追求しない場合があります。

東京電力の事案でも、東京電力自身は取締役らの責任を追求しませんでした。

 

このように会社自身が役員の責任を追及しない場合、株主が会社を代表して経営陣を訴えることができます。それが株主代表訴訟です。

 

わかりやすくいうと「会社が取締役を訴えないから、代わりに株主が訴える裁判」と理解すると良いでしょう。

 

なお東電のケースで会社が役員らの責任を追及しなかった理由は、役員らが刑事裁判で無罪になっていたことなども影響していると考えられます。

刑事裁判では一審で旧経営陣が無罪となって控訴されましたが、控訴審でも無罪とする判決(控訴棄却)が出ています(東京高裁2023年1月18日)。

 

このように刑事裁判で旧経営陣の責任が否定される中、民事的には経営陣の責任が認められるのかが注目されていました。

 

 

2.株主代表訴訟で入ってきたお金は誰に支払われるのか?

株主代表訴訟で支払い命令が出たら、そのお金は誰に支払われるのでしょうか?

株主代表訴訟の場合、支払い命令が出ても原告である株主に入ってくるわけではありません。支払い先は「会社」になります。株主は、あくまで会社の代わりに訴訟を起こしているだけだからです。

 

このように株主代表訴訟では「訴えた人にお金が入ってこない」点に特殊性があるといえるでしょう。

 

3.株主代表訴訟にはいくらかかるのか?

株主代表訴訟を提起する場合、どの程度の費用がかかるのでしょうか?

 

株主代表訴訟では請求金額が大きくなるケースが多々あります。たとえば東京電力のケースでは一審で、約22兆円の請求が行われています。

民事裁判の原則によると、22兆円もの訴訟提起をするには、何百億円もの印紙代がかかってしまってしまう計算になります。

しかしそのような金額はほとんどの方が用意できないでしょう。

そこで株主代表訴訟の場合、一律で訴額を160万円とし、印紙代は13000円になるとされています。

 

よって東京電力のケースでも、株主は印紙代として13000円しか負担していません。

これに数千円分の郵便切手を用意すれば裁判費用は支払えます。

 

4.株主代表訴訟の弁護士費用について

株主代表訴訟を起こすときには通常、弁護士に依頼するものです。弁護士費用はどのくらいになるのでしょうか?

 

弁護士費用は通常、請求金額や依頼者の得られた経済的利益に応じて計算されます。

仮に支払い命令の出た13兆円を基準にすると、約5000億円になってしまう計算です。

そのような多額の弁護士報酬を払える人はほとんどいないでしょう。

 

ただ本件でも実際に5000億円もの弁護士報酬が発生するわけではありません。

株主代表訴訟では、支払い命令の出た金額がそのまま弁護士報酬の基準となるわけではないのです。

4-1.13兆円が基準にならない理由

株主代表訴訟で支払い命令が出た金額が弁護士報酬の基準にならない理由は以下のとおりです。

1つにはそもそも13兆円は会社に支払われるお金であって、株主に入ってくるわけではありません。会社に入るだけなので、株主に直接的な経済的利益がないのです。経済的利益がなければ弁護士報酬は発生しないのが原則です。

また13兆円という金額は、被告となった役員ら個人が払うには高すぎます。実際には払われず、判決は「絵に描いた餅」となる可能性が高いでしょう。そういった意味からも、13兆円という数字に現実性はありません。

 

弁護士報酬が0円ということはありえないと考えられますが、13兆円を基準とした高額な費用にならないこともほぼ間違いないでしょう。

 

4-2.株主は一切お金をもらえない?

支払い命令の出た13兆円が会社に支払われるなら、株主は一切お金を受け取れないのでしょうか?

実際にはそういうわけでもありません。会社法上、株主代表訴訟で株主が負担した弁護士費用の一部(相当額)は会社へ請求できると規定されているためです(会社法852条1項)。

東電の株主も、相当な額の弁護士費用については会社へ請求できると考えられます。

 

5.役員らの責任はどうなるのか?

東電のケースでは旧経営陣らに約13兆円もの支払い命令が出ました。経営陣らが支払えない場合、どのような対応が予想されるのでしょうか?

 

まず本件のような場合、会社側が免責する、あるいはあえて賠償金を請求しない可能性があります。

また役員らは役員賠償保険に入っている可能性があります。もしも入っていたら、一部は保険によって補填されるでしょう。

さらに東電のようなケースでは、元役員らが破産すると免責される可能性が高いと考えられます。免責されれば一切の責任がなくなります。

旧経営陣が破産せずに死亡した場合、相続人によって相続放棄されるでしょう。相続放棄された場合、支払義務はなくなります。

 

つまり今回のケースでは、13兆円の支払い命令は出ましたが、実際に東電が13億円を回収できる可能性は極めて低いと考えられます。

 

動画でも株主代表訴訟や東京電力の事件について解説しています。関心のある方はぜひ参考にしてみてください。

 

 

 

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