【あおり運転には暴行罪が成立?】警察庁も厳正な処罰方針へ
お盆シーズンに、またしても危険な自動車トラブルが発生しました。
今回は、原因は不明ですが、高速道であおり運転を行った上、
被害車両の前方に出て蛇行運転を繰り返すなどして進路妨害を行い、
さらにトンネル内で自動車を進行できなくしたうえで
自車から降車し、被害車両に因縁をつけてきたという事案のようです
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20180817-00000067-nnn-soci
煽っているだけで衝突させるつもりはなかった
事故を起こさせるつもりはなかった
などという弁解が通じないほどに、極めて危険な運転行為です
このような弁解は恐らく裁判でも通じないでしょう
高速道のようなある程度の速度で走行する道路において
いわゆるあおり運転や、幅寄せ運転、今回のような走行妨害を行った結果
人を怪我させた場合には、危険運転致傷罪(1月~15年以下の懲役)
さらに人を死亡させた場合には、危険運転致死罪(1年~20年の懲役)
となります。(条文は後記)
危険運転行為に対しては
以前は業務上過失致死傷罪しか成立させられなかったので(法定刑は5年以下の懲役・禁錮もしくは100万円以下の罰金)
厳罰化が叫ばれており
その流れを汲んで制定された危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法)に
今回のような煽り運転は
おもいっきり該当することになります。
当然その刑は重いです。
では、人に怪我などをさせなかった場合はどうなるのでしょうか?
当然、なんらかのかたちで道路交通法違反(車間距離不保持・高速道路の場合)にはなるのでしょうが
道路交通法違反の罪は3月以下の懲役という軽い刑罰しかありません。
(車間距離の保持)
(罰則)
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
また例えば最高速度違反でも6月以下の懲役にしかなりません。
第百十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第二十二条(最高速度)の規定の違反となるような行為をした者
このような危険運転行為に対して成立しうる犯罪は
暴行罪(刑法208条)
になります(条文は後記)
暴行というのは人の身体に対する違法な有形力の行使
なので、あおり運転をした程度では、人の身体に有形力は及んでいないんじゃないの?
と思われるかもしれません。
しかし、東京高裁(昭和50年4月15日判決)は幅寄せ運転の事案で明確に
「暴行罪に当たると解するのが相当」
と判断しています。(判旨は後記)
司法試験受験生なら皆知っている知識として
狭い部屋で刀を振り回したら暴行罪
という裁判例があります。
これと同様のセンスなのかなと思います。
嫌がらせ目的の幅寄せも、あおり運転や直前侵入も
被害車両の運転方法に死傷をもたらすことにより交通上の危険を招来させるものであることは明白です。
それゆえ、被害車両の車内にいる物に対する不法な有形力の行使にあたる
との判断は、あおり運転等にも妥当することになります。
そして、警察庁は各警察に対して、あおり運転について暴行罪の適用を視野に入れた取締強化を指示しているとのことです
なお、あおり運転が暴行罪になるのであれば
あおり運転の結果、怪我をすれば通常は傷害罪になるのですが
(結果的加重犯、要は暴行を原因として、重い結果である傷害結果が生じれば傷害罪)
特別法である危険運転致傷罪がありますので、
こちらが適用されることになります。
いずれ、高速道路のような場所での煽り運転は
人の生命侵害に直結しうる大変危険なものです
あおり運転は絶対にしてはいけませんし
取り締まりは当然強化されるべきです
危険なあおり運転に対しては即免許取消などの行政処分が検討されるべきですし
改めて
『あおり運転罪』というかたちで
暴行罪よりも重く、かつあおり運転行為を具体的に特定した
法律を作るべきと思います
また、もしあおり運転の被害にあった場合には、追突等の事故を起こさないよう低速での走行をし
もし停車させられてしまって、加害者が迫ってきても
絶対にドアを開けずに110番通報をしてください。
トラブルの根絶を期待します。
また今回の加害者への処罰にも注目していきたいと思います。
abemaTV「有罪率99.9%」の刑事裁判で無罪連発 “勝訴請負人”弁護士の信念とは
【参考条文】
刑法
東京高等裁判所 昭和50年4月15日判決
本件のように、大型自動車を運転して、傾斜やカーブも少なくなく、多数の車両が二車線上を同一方向に毎時五、六〇キロメートルの速さで、相い続いて走行している高速道路上で、しかも進路変更禁止区間内において、いわゆる幅寄せという目的をもつて、他の車両を追い越しながら、故意に自車をその車両に著しく接近させれば、その結果として、自己の運転方法の確実さを失うことによるとか、相手車両の運転者をしてその運転方法に支障をもたらすことなどにより、それが相手方に対する交通上の危険につながることは明白で、右のような状況下における幅寄せの所為は、刑法上、相手車両の車内にいる者に対する不法な有形力の行使として、暴行罪に当たると解するのが相当である。即ち被告人としては、相手車両との接触・衝突までを意欲・認容していなかつたとしても、前記状況下において意識して幅寄せをなし、相手に対しいやがらせをするということについての意欲・認容があつたと認定できることが前記のとおりである以上、被告人には暴行の故意があつたといわざるを得ないのである。